2020年12月の記事一覧

子どもの声を聴く社会を築くために

子どもアドボケイトを知っていますか

|子どもアドボカシー|子どもコミッショナー|子どもの権利| 意思表明権|

子どもアドボカシーセンターNAGOYA代表理事
奥田陸子

子ども・若者の声が社会を変える
子どもの言葉や行動にハッとさせられたことのある大人は多いと思う。そう、子どもは大人が忘れてしまったような新鮮なものの見方、発想力の持ち主なのだ。その子どもらしい発想力が引き出せれば、大人も幸せになり、社会は変わるだろう。

コロナウイルスの蔓延に伴い、世界中が大騒動しているが、これを機に、子どもたちも変わってきている。自分の頭で考え、自分の言葉で意見が言える子どもたちは、大人に向かい合って自分たちの考えを言葉にし、それを通して、よりよい未来をつくることをあきらめがちな大人たちに、「そんなことはない」、「社会は変えることができるんだ」というお手本を、あちこちで示し始めている。

東京都板橋区の小学生チーム「ザ・レッドムーン」が「サッカーできる場所がなくて困っています」と区長に陳情した結果、区議会で慎重に協議され、子どもたちの願いが一部採択されたという事例をWEBで読んだ。兵庫県南あわじ市の神代小学校では、市が決めた運動会中止の理由を理解はしながらも、例年通りの運動会はできなくても工夫して自分たち流のやり方で運動会を実施したいと、大人を説得して、やりたいことを成し遂げたという事例も、テレビで見た。これらの事例はほんの氷山の一角に過ぎないことは想像に難くない。NHKのテレビ番組で紹介されたZ世代(ゼット世代)注1)も、どちらかというと並みの子どもからはみ出した子どもや若者がITを駆使して世界中に仲間を増やしていった事例であった。
もう20年も前に私が関わって日本に紹介した『子どもの参画―コミュニティづくりと身近な環境ケアへの参画のための理論と実際』注2)にも、大人といっしょに子どもや若者が社会を変えていった海外の事例が紹介されているが、それらに匹敵するような事例が日本にも広がりつつあることをうれしく思っている。

子どもの意見表明権行使を助ける「子どもアドボカシー」制度
一方で、いじめや虐待、貧困、親の病気などで苦しんでいる子どもたちも少なからずいるが、その子たちは自分の気持ちを声に出せない、意見を表現する言葉も持たないことが多い。そういう子どもたちが、誰かの助けを受けることで自分の気持ちや意見が表現できるようになれば、その子たちが抱えているいじめや虐待その他の問題の解決にどれだけ貢献でき、前向きな明るい社会を実現できるか、想像するだけで気持ちが明るくなる。
日本の政治の世界でも、動きが出始めた。塩崎元厚生労働大臣が声をかけて、「子ども基本法」の試案、立法化に向けて議員たちの勉強会が開かれたと聞く。議員さんたちが子どもの福祉ばかりでなく教育の分野でも現状や子どもたちの実態を知り、対策や制度改革を真剣に考えてくれるようになれば、日本社会も変わることが期待できる。

すでに、福祉分野では、子どもアドボカシー制度が日本でも広がり始めた。「子どもアドボカシー」とは、

1)子どもがその時に言いたいこと(願い)や気持ちを、誰かが大きな声でわかりやすく(マイクになったつもりで)人に伝えること

2)子どもが自分の声で言える時は、それを励まして、できるだけ子ども自身の声で人に伝えるように支援すること

3)子どもの生活や将来に影響が及ぶ大事なことを、大人たちが決めようとしている場で子どもが声をあげられない場合、大人が子どもの代理者(アドボケイト)になってその子どもの意見を人(おとな)に伝える人およびその行為

などを指す。声に出す場合だけでなく書類に書きこむ場合もこれに準ずる。

子どもの権利を守り進めるために
私は、ここで、英国の子どもコミッショナーのこともお伝えしたい。これは、子どもの権利条約を批准した英国の機関であり、国内の子どもの権利の実情を把握し、調査し、それを全国の人に知らせると同時に、子どもの権利実現をさらに進めるための政策提言を行う役割を担う。私はこの英国子どもコミッショナーのことを設立当初からずっと注目してきた。英国では、この「子どもコミッショナー」と「子どもアドボケイト」が車の両輪として機能していることを見てきた。願わくは、日本も子どもの権利を守り進めるために英国のような進め方を取ってほしい。

 

注1 NHKテレビ番組「Zの選択」HPによると、Z世代とは、現在25歳以下(1995年以降生まれ)のジェネレーションのことで、物心つく頃からデジタルもSNSも使いこなす“ソーシャルネイティブ”と呼ばれる世代を指し、新しい価値観を持つと言われている。
注2 ロジャー・ハート著『子どもの参画―コミュニティづくりと身近な環境ケアへの参画のための理論と実際』木下勇・田中治彦・南博文監修、IPA日本支部訳、萌文社、2000年

 



奥田陸子(おくだりくこ)
名古屋市在住。1988年から子どもの遊ぶ権利のための国際協会(IPA)の日本支部の会員として活動してきた。現在子どもアドボカシーセンターNAGOYA」代表理事。

 

子ども参画から子どもアドボカシーへ

一人ひとりの子どもの声を大切に
|子どもの権利|子ども参加|児童館|子どもアドボカシー|

こどもフォーラム代表
原 京子

 

スタートはピンポンハウスから
20年前、奥田陸子さんらが翻訳し日本に紹介したロジャー・ハート著『子どもの参画』1)を読んで衝撃を受けた人は少なくないだろう。私もその一人で、子どもの参画を日本でも実現しようと2001年にNPOを立ち上げた。当時は「子どもの参画ってどういうことなの?」「何をするの?」と問われることも多く、ならばと、子どもの参画を実践する場として古民家を借りピンポンハウスを開設した。集まった子どもたちが中心となり、この場所をどう使うか、何をやるのか、どうやって実現するか、話し合うことからスタートした。
実践する中で気づいたことは、まずは大人が子どもの権利条約にある子どもの権利をよく理解する必要があること。そしてその場が子どもの権利を保障する場になっているかを考えること。つまり、集う場所が一人ひとりの子どもにとって安心して過ごせる場であること、子どもも大人も互いを尊重しあえる関係があること。そういう場があることで、はじめて子どもは自分の思いや考えを自由に表し、その思いを実現する力を発揮していく。大人が情報を提供することで、子どもが地域や社会の問題に関心を持ち、なんらかのアクションが生まれたりもする。大人は子どもの持つ力を信じて待つこと。これは今でも子どもたちと活動する時に大事にしている。

民間での取り組みを児童館へ
ピンポンハウスの実践を民間だけのものにしておくのではなく、公共の施設である児童館でもやってみようと、名古屋市児童館の指定管理者に応募したのは2007年のことであった。運営者となってみて、実に様々な子どもたちが一日100人以上も来訪し、児童館の受容力のすごさに驚いた。同時に、子どもが使う施設なのにイベントなどもすべて職員が決め、子どもの意見がほとんど反映されていないことにも驚いた。そこで、子どもがやりたいことを提案する企画や、大人だけの運営委員会に子どもが参加する機会を増やしていった(写真1)。

写真1 ピンポンハウスで何をやりたいか話し合う様子

子どもの権利を柱に「子ども参加」で運営する「らいつ」

名古屋での実践を踏まえ、運営に「子ども参画」を実現したのが「石巻市子どもセンターらいつ」(以下、「らいつ」)である。これは東日本大震災後、復興における「子ども参加」を目指し、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンがサポートしてきた子どもまちづくりクラブが企画・デザインした児童館である。子どもの権利を柱に子ども参加で運営される(なお、「らいつ」では「子ども参画」ではなく、「子ども参加」という表現を使っている)。
「らいつ」は「子ども参加」の仕組みを3つの段階に分けている(写真2)。

1)子ども企画:一人ひとりが個人として行うもの

2)子ども会議・子どもセンター運営会議:利用者及び利用者代表として「子ども参加」するもの

3)子どもまちづくりクラブ:市民として「子ども参加」するもの

子ども会議、運営会議とも利用運営を考える重要な役割を担っており、市民としての子ども参加に「子どもまちづくりクラブ」が位置付けられている。

震災によりさびれてしまった商店街を活性化しようと子ども視点で商店街マップを作り、ハロウィン祭りを提案したのは「子どもまちづくりクラブ」であった。今では1000人近くが参加する地域の恒例行事となっている。子ども参加や子どもの主体的活動と言えば「らいつ」と、全国の児童館から注目されている。
しかし、なかなか「子ども参加・参画」は広がっていかないのが実情である。その理由に、古い子ども観に囚われる大人の存在がある。「子どもは守ってあげなければ」とか、「子どもにはわからないので大人が決めるものだ」という保護的考え方や、指導的関わり方がまだまだ多い。子どもの主体的活動と言いながら、「参加させる」「やらせる」といった、主体的とは反対の言葉がおかしいとも思われずに使われている。

写真2 子どもたちの声が実現する生態系図(「石巻市子どもセンターらいつ」より)2)

一人ひとりの子どもの声を大切に
2016年、児童福祉法に子どもの権利条約が位置付けられ、第2条には意見表明権が記載された。しかし、児童福祉施設で働いている職員でさえ、「「子どもの権利条約に基づく」とは、何をどうすればよいの?」と戸惑っている感じがする。子どもの権利に対する理解を広げ、子どもの権利に基づいた子ども観をどう伝えるのか。一部の子どもではなくすべての子どもに参加する権利を広げていくにはどうしたらよいのか。そう考えていた時に出会ったのが「子どもアドボカシー」である。
「子どもアドボカシー」とは、子どもが話したいことを自ら話せるように支援したり、必要な場合には、子どもの思いや意見を代わって表明すること。比喩的に言えば、小さな子どもの声を大きくするマイクのような役割で、子どもの権利条約第12条の意見表明権を具現化するものとも言われる。
「子どもアドボカシー」に出会って、「子ども参加」は子ども一人ひとりの声を聴くことであると改めて確認できた。子どもの声に耳を傾けると様々なことが見えてくる。学校のこと、放課後の過ごし方、子どもの遊ぶ環境、社会の問題、政治の問題などなど。子どもの声から社会システムの問題が示唆されると言われるが、まさに今、そのことを実感している。子どもの声から見えてきた社会システムの問題を「子ども参画」で変えていく、そんなことを夢見ている。ぜひ「子どもアドボカシー」に関心を持ってほしい(写真3)。

  

写真3子どもアドボカシーを学ぶ講座

 

「石巻市子どもセンターらいつ」紹介動画もご覧ください。
https://www.facebook.com/1447043615525521/videos/1970074839889060

 

参考文献・参考ホームページ
1) ロジャー・ハート[著]、木下 勇・田中 治彦・南 博文[監修]IPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)日本支部[訳]、『子どもの参画』(萌文社2000)
2) 石巻市子どもセンターらいつ、「アニュアルレポート(年間活動報告書)」(2019)
https://ishinomaki-cc.jp/wp/wp-content/uploads/2020/07/%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%AC%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%882019.pdf
3)堀正嗣[著]、「子どもアドボケイト養成講座 子どもの声を聴き権利を守るために」(明石書店2020)

 



原京子(はらきょうこ)
元石巻市子どもセンターらいつ施設長を経て、現在は、こどもフォーラム代表に就任。一般社団法人子どもアドボカシーセンターNAGOYA理事/事務局長としても活動中。