2021年12月の記事一覧

書評『子育て罰 「親子に冷たい日本」を変えるには』

著者の末冨氏は京大出身の教育学者で、現在、日本大学文理学部教授である。共著者の桜井氏は大阪市大出身の社会学者で、現在、立命館大学産業社会部准教授である。
子育て罰とはChild Penaltyの訳とされているが、子育てすることが社会的に罰を課せられている状態を指している。本書では「そうであってはならない。課す側の政治や社会に責任がある」とし、「子育て罰」を政治と社会の場からなくそうとする概念として用いている。
桜井氏は自治体ケースワーカーとして働いた経験において、我が国の福祉の問題を実感したところから出発し、未冨氏は自身の子育て中に「駅でベビーカーを蹴られた」と実体験から、日本の社会における「子育てする親に対する冷たさ」を感覚的に捉えながら研究されている。本書ではそれぞれの経験・体験を通して、我が国のこども、子育てする親に対するさまざまな不合理を、実例を挙げて紹介している。
我が国のこども、子育てに対する国家投資はヨーロッパ諸国と比して極めて低く、デンマークやフランスの2分の1から3分の1であるなど、政治のあり方についても問題提起している。
とにかく驚くのはその改善策として、こども、親にやさしい日本に進化させるために、2つの条件、すなわち、1)その意識をもつ国会議員を増やすこと、2)自身を含めて有権者の行動が変化する必要性を挙げていることである。
私自身もこどもの成育環境改善のために、法律を含めた社会システムを変えるためには学術的なエビデンスに基づき、さまざまな私たちの行動が重要であることを認識している。今まで未冨氏のような具体的な政治的働きかけをしてこなかったわけではないが、不十分だったという反省がある。ぜひこども環境学会も、こどもたちのために、社会システムを変えていくためには、五十嵐会長が主導されているこども基本法の運動と同様、未冨氏のように政治的にも積極的に働きかけをしていく努力を、学会としてもやっていくことを考えねばならないことを示唆している。そういう意味でも極めて重要な本といえる。

(東京工業大学名誉教授 仙田満)

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書名:子育て罰 「親子に冷たい日本」を変えるには(コソダテバツ)
著者:末冨 芳 (著)、桜井 啓太 (著)
発売日:2021年7月14日発売
定価:1,012円(税込み)
ISBN 978-4-334-04551-7
光文社新書
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334045517

書評『ないないづくしの里山学校』 

日本各地を旅してきた写真家である著者が、千葉県木更津市にある里山学校の日常を紹介した書籍である。里山学校は、古民家を中心とした約一万坪の里山が舞台で、保育園年長組が年間50日ほどを過ごす里山保育と、小学生が思い思いに過ごす土曜学校の両者からなる。活動は全てが魅力的で、泥んこ遊びのほか、焚火、小刀を使ったものづくり、車や自転車などの分解、生き物とのふれあい、昼ご飯のためのおかず収集・料理など多岐に渡る。少しでも服が汚れるとクレームを言う保護者もいる今日、泥だらけで健やかに笑う子どもたちの写真は心がホッとする。また、何かと他者の目を気にすることが多く、学校でも集団活動に重きが置かれている現在、子どもが「一人でいる」ことが担保されている貴重な場であることが描かれている。この書籍の中で宮崎園長は、大人が先回りして危険を排除している状況や多くのものが簡単に手に入ることを危惧し、子どもたちの要求がすぐには満たされないように工夫する必要性を力説している。特に保育・教育関係者や子育てをしている方々は、時たまページを開いて写真や文章を感じるだけでも、「子どもに対してどのように接するべきか」改めて考えるきっかけとなるだろう。
(福井工業大学 藤田大輔)

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タイトル:ないないづくしの里山学校
著者:岡本央
価格:1,400円(税別)
出版社:家の光協会
ISBN:978-4259547707
発行年:2019年8月21日
サイズ(書籍の大きさ):A5/127p
リンクURL:http://www.ienohikari.net/book/9784259547707

 

書評『にゃんたとおつきさま』

居住する地域のエコマルシェで仲間とボランティアとして「絵本のかえっこ」でお子さんへの支援をしている。いかに子どもの目線の高さで本を並べるか、ひそかに読んでほしい絵本をお子さんの目に留まるように並べるなど試行錯誤している。いつも感動するのは、ゴザを敷いたところで母と子が、あるいはお父さんが両膝の上にお子さんをのせて読み聞かせをしている姿である。
この絵本は、にゃんた君がお供えの「月見団子が減らないなぁ~」という小さな疑問をもち、お月様にお団子を届けたいと大きなお月さまに向けて走り出す物語。海まで走り続けるが、届けることができない。思案していると月は「にゃんた君の気持うれしいよ」と声をかけ、お月様のところまで体が登っていく。月に照らされた眼下には、たくさんのお家に団子がきらきらと輝いている。「月はお団子を食べないけれど、みんながお団子をつくり幸せに暮らしていることを月に見せているんだ」と十五夜お月様の由来を小さなお子さんにもわかりやすく説いている。
江戸時代から庶民に根付いてきた月見行事を考えるヒントの小さな物語。ぜひ、親子でご一緒に夜空を眺め、お月見や満月の意味を考えて下さい。夜空に輝く星や月のカタチが変化していく様子を親子で一緒に観測し、さらに他の宇宙の絵本を読みきかせてお子さんの夢を広げていただきたいですね。

       2021年9月21日十五夜 小澤 紀美子

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にゃんた と おつきさま
さく:きみきみよ/え:みやかわさとこ
定価:1,210円 (本体 1,100円)
判型:B5上
ページ数:24
発刊日:2020/09/15
ISBN:978-4-286-21859-5
発行:株式会社文芸社
https://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-21859-5.jsp

書評『非認知能力を育てるあそびのレシピ』『非認知能力を育てる「しつけない」しつけのレシピ』

 


 
乳幼児期の生活の全ては遊びで成り立っていることは言うまでもないことです。しかし、それはともすれば大人の都合で時間が制約される活動になり、時には失敗が許されない活動となってしまうことがあります。こどもの遊びを大切に考えている家庭でさえ親の気分によって、ある種の遊びはしばしば悪戯とされてしまうこともあります。これではこどもの非認知能力を育てることはできません。新たな幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領によれば、「遊びは自発的・主体的な活動であり、指導者主導の遊びからこども自らが遊び込むための支援と環境作りの視点」と遊びを捉えています。遊び込むことで非認知能力が育ち、10年後20年後に「解の無い問いに解を得ることのできる人材に育つ」のです。重要性については理解できても、その成果に結びつける具体的な方法について示されたものが少ない中、実際の体験から書かれた本書は貴重な存在だと思い推薦させていただきます。

(聖徳大学 神谷 明宏)

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書名:非認知能力を育てる あそびのレシピ 0歳~5歳児のあと伸びする力を高める
著者名:著:大豆生田 啓友 著:大豆生田 千夏
発売日:2019年06月27日
価格:定価:1,540円(本体1,400円)
ISBN:978-4-06-516199-9
判型:A5
ページ数:128ページ
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000322907

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書名:非認知能力を育てる「しつけない」しつけのレシピ 0歳~5歳児の生活習慣が身につく
著者名:著:大豆生田 啓友 著:大豆生田 千夏
発売日:2021年08月26日
価格:定価:1,540円(本体1,400円)
ISBN:978-4-06-524316-9
判型:A5
ページ数:120ページ
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000353847