《特集》感染症とこども環境の新しい関係に向けて: 家をあそび場にしよう

住まいをこどものあそび場とする視点を持とう
|こどもの成育環境|あそびを生み出す|居住空間|

仙田 満

 

 

こどもにとっての時間

 こどもにとっての時間は大人のそれとは異なる。こどもの1日、1か月、1年という時間における体験の量は大人とは違う。とても大事なのだ。東日本大震災時の福島では原発事故によって、数カ月間、こどもは外であそぶことができなかった。その数カ月の影響は肥満・体力低下等、さまざまな問題を興した。しかし、今回のコロナウィルス禍では、その状況はもっと深刻である。こどもが集まり一緒にあそぶことも制限されている。このような状況がいつまで続くのか見えないのが問題だが、こどもの成育に大きな影響を及ぼすことが予測される。

 

建築家から見たこどものあそび場

 長年、建築家として住宅設計にも関わっている者としては、我が国のこども、特に都市部に居住するこどもは、先進国の中で比較的狭い住まい空間で成育しているといえる。しかし、かつては家の周り、家の外には大きなあそび場があった。

 しかし、今、学校、児童館、公園でも3密が起こるとされ、集まる事が制限されている。こどもは家の中に閉じ込められていると言っても良い。在宅勤務の保護者とかなり高い人密度の中で過ごし、ストレスがたまり、虐待、いじめが起こっている家庭もあると新聞等では報じられている。

 小さな居住空間でも、そこにあそびを生みだすことはできる。ぜひこどもと一緒に考えてみて欲しい。ダンボールでも、ビニールシートでも、新聞紙でも使いながら、床、壁、天井にこどもと自由に絵を描き、貼ってみる。あるいは家具を使いながら、小さなアジトだって造ることができる。テレビゲームやスマホよりもおもしろい発見や体験が生まれる。家の中の日常的な空間を非日常的な空間に変え、運動場に、劇場に、隠れ場に、工作場にと、新たなあそびの空間づくりを考えてみてはどうだろうか。

 

空間を変える、こどもにとっての新しい力の獲得の時

 こどもも大人も家の中で過ごさねばならないこの状況を受け入れなければならない。そのためにも、自分の家、部屋そのものをもっと楽しくしていくように考え、改変したらどうだろうか。空間を変える、こどもにとっての新しい力の獲得の時でもある。こどもにとっての数カ月は人生にとって忘れられない体験の時間となる。それが有益な時間となるよう、こども自身、保護者、地域の人々すべてが成育環境全体を考えるきっかけにすべきだと思われる。特にこどもの成育環境として住まいをこどものあそび場とする視点を見直す良い機会だと思われる。


 

仙田満(せんだみつる)

環境建築家。東京工業大学名誉教授、こども環境学会代表理事。日本建築学会会長、日本建築家協会会長、こども環境学会会長、日本学術会議会員などを歴任。長年、こどもの成育環境のデザインを中心とした研究、設計に携わり、愛知県児童総合センター、富山県こどもみらい館、広島市民球場、国際教養大学、中島記念図書館などを設計。著書に『こどもとあそび』(岩波書店)、『こどものあそび環境』(筑摩書房・鹿島出版会)、『こどもの庭』(世界文化社)、『人が集まる建築』(講談社現代新書)、『子どもを育む環境 蝕む環境』(朝日新聞出版) 等。