子ども参画から子どもアドボカシーへ

一人ひとりの子どもの声を大切に
|子どもの権利|子ども参加|児童館|子どもアドボカシー|

こどもフォーラム代表
原 京子

 

スタートはピンポンハウスから
20年前、奥田陸子さんらが翻訳し日本に紹介したロジャー・ハート著『子どもの参画』1)を読んで衝撃を受けた人は少なくないだろう。私もその一人で、子どもの参画を日本でも実現しようと2001年にNPOを立ち上げた。当時は「子どもの参画ってどういうことなの?」「何をするの?」と問われることも多く、ならばと、子どもの参画を実践する場として古民家を借りピンポンハウスを開設した。集まった子どもたちが中心となり、この場所をどう使うか、何をやるのか、どうやって実現するか、話し合うことからスタートした。
実践する中で気づいたことは、まずは大人が子どもの権利条約にある子どもの権利をよく理解する必要があること。そしてその場が子どもの権利を保障する場になっているかを考えること。つまり、集う場所が一人ひとりの子どもにとって安心して過ごせる場であること、子どもも大人も互いを尊重しあえる関係があること。そういう場があることで、はじめて子どもは自分の思いや考えを自由に表し、その思いを実現する力を発揮していく。大人が情報を提供することで、子どもが地域や社会の問題に関心を持ち、なんらかのアクションが生まれたりもする。大人は子どもの持つ力を信じて待つこと。これは今でも子どもたちと活動する時に大事にしている。

民間での取り組みを児童館へ
ピンポンハウスの実践を民間だけのものにしておくのではなく、公共の施設である児童館でもやってみようと、名古屋市児童館の指定管理者に応募したのは2007年のことであった。運営者となってみて、実に様々な子どもたちが一日100人以上も来訪し、児童館の受容力のすごさに驚いた。同時に、子どもが使う施設なのにイベントなどもすべて職員が決め、子どもの意見がほとんど反映されていないことにも驚いた。そこで、子どもがやりたいことを提案する企画や、大人だけの運営委員会に子どもが参加する機会を増やしていった(写真1)。

写真1 ピンポンハウスで何をやりたいか話し合う様子

子どもの権利を柱に「子ども参加」で運営する「らいつ」

名古屋での実践を踏まえ、運営に「子ども参画」を実現したのが「石巻市子どもセンターらいつ」(以下、「らいつ」)である。これは東日本大震災後、復興における「子ども参加」を目指し、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンがサポートしてきた子どもまちづくりクラブが企画・デザインした児童館である。子どもの権利を柱に子ども参加で運営される(なお、「らいつ」では「子ども参画」ではなく、「子ども参加」という表現を使っている)。
「らいつ」は「子ども参加」の仕組みを3つの段階に分けている(写真2)。

1)子ども企画:一人ひとりが個人として行うもの

2)子ども会議・子どもセンター運営会議:利用者及び利用者代表として「子ども参加」するもの

3)子どもまちづくりクラブ:市民として「子ども参加」するもの

子ども会議、運営会議とも利用運営を考える重要な役割を担っており、市民としての子ども参加に「子どもまちづくりクラブ」が位置付けられている。

震災によりさびれてしまった商店街を活性化しようと子ども視点で商店街マップを作り、ハロウィン祭りを提案したのは「子どもまちづくりクラブ」であった。今では1000人近くが参加する地域の恒例行事となっている。子ども参加や子どもの主体的活動と言えば「らいつ」と、全国の児童館から注目されている。
しかし、なかなか「子ども参加・参画」は広がっていかないのが実情である。その理由に、古い子ども観に囚われる大人の存在がある。「子どもは守ってあげなければ」とか、「子どもにはわからないので大人が決めるものだ」という保護的考え方や、指導的関わり方がまだまだ多い。子どもの主体的活動と言いながら、「参加させる」「やらせる」といった、主体的とは反対の言葉がおかしいとも思われずに使われている。

写真2 子どもたちの声が実現する生態系図(「石巻市子どもセンターらいつ」より)2)

一人ひとりの子どもの声を大切に
2016年、児童福祉法に子どもの権利条約が位置付けられ、第2条には意見表明権が記載された。しかし、児童福祉施設で働いている職員でさえ、「「子どもの権利条約に基づく」とは、何をどうすればよいの?」と戸惑っている感じがする。子どもの権利に対する理解を広げ、子どもの権利に基づいた子ども観をどう伝えるのか。一部の子どもではなくすべての子どもに参加する権利を広げていくにはどうしたらよいのか。そう考えていた時に出会ったのが「子どもアドボカシー」である。
「子どもアドボカシー」とは、子どもが話したいことを自ら話せるように支援したり、必要な場合には、子どもの思いや意見を代わって表明すること。比喩的に言えば、小さな子どもの声を大きくするマイクのような役割で、子どもの権利条約第12条の意見表明権を具現化するものとも言われる。
「子どもアドボカシー」に出会って、「子ども参加」は子ども一人ひとりの声を聴くことであると改めて確認できた。子どもの声に耳を傾けると様々なことが見えてくる。学校のこと、放課後の過ごし方、子どもの遊ぶ環境、社会の問題、政治の問題などなど。子どもの声から社会システムの問題が示唆されると言われるが、まさに今、そのことを実感している。子どもの声から見えてきた社会システムの問題を「子ども参画」で変えていく、そんなことを夢見ている。ぜひ「子どもアドボカシー」に関心を持ってほしい(写真3)。

  

写真3子どもアドボカシーを学ぶ講座

 

「石巻市子どもセンターらいつ」紹介動画もご覧ください。
https://www.facebook.com/1447043615525521/videos/1970074839889060

 

参考文献・参考ホームページ
1) ロジャー・ハート[著]、木下 勇・田中 治彦・南 博文[監修]IPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)日本支部[訳]、『子どもの参画』(萌文社2000)
2) 石巻市子どもセンターらいつ、「アニュアルレポート(年間活動報告書)」(2019)
https://ishinomaki-cc.jp/wp/wp-content/uploads/2020/07/%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%AC%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%882019.pdf
3)堀正嗣[著]、「子どもアドボケイト養成講座 子どもの声を聴き権利を守るために」(明石書店2020)

 



原京子(はらきょうこ)
元石巻市子どもセンターらいつ施設長を経て、現在は、こどもフォーラム代表に就任。一般社団法人子どもアドボカシーセンターNAGOYA理事/事務局長としても活動中。